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zoom RSS 「かたなし」が末尾につく言葉。「遣(や)らん方なし」はどんな意味なの?

<<   作成日時 : 2015/06/04 08:17   >>

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★日本語★
問題:「かたなし」はふつう「形無し」と表記します。「本来の価値が損なわれ、何の役目もしなくなる」ことだそうです。台無しとほぼおなじらしい。
■清少納言の「枕草子」129段には「かたなしなもの」として「潮が引いた干潟にある大きな船」とか「髪の毛の短い女が、かもじをとりはずして髪を梳(す)いている時」などが並べられています*1。かもじはここでは鬘(かつら)らしい。近ごろ風にいえばエクステなのかな。昔は髪の毛が短いだけで人間としての評価まで下がっちゃったのでしょうかね。
■「誰の型でもない? 形無してぇやつだな。なおいけねぇ」。この台詞は、落語淀五郎(よどごろう)のものです。主人公の若手役者淀五郎の演技を、中村仲蔵(なかぞう)という大御所が批評する場面です。淀五郎が独りよがりに演じる忠臣蔵の判官は、誰の流儀でもないからかたなしだと駄洒落をまじえて断じています。
■ところで、かたなしは、言葉の末尾につく場合もあります。この場合は「方なし、方無し」という表記になるらしい。いまでも「しかたない」とか「あとかたなし」という言葉は使われます。では、次の「方なし」が末尾につく言葉の意味はどんなものでしょうか?
[い]遣(や)らん方なし
[ろ]紛(まご)う方なし
[は]せん方なし
[に]譬(たと)えん方なし
[ほ]言わん方なし
(答えはずっと下↓ スクロールして下さい)

























★日本語★
正解:各項目を参照してください
説明:[い]遣(や)らん方なしはどこへやることもできないという意味である
■「遣」は「派遣」にも含まれる漢字です。「つかわす」という意味があるらしい。ここでは、「何か心配ごとや悲しいことがあっても、それをどこへもやることができない。いつまでも心が晴れない」という意味になるようです。
□「源氏物語」の第4帖「夕顔」では次のように使われているらしい。「などて、かくはかなき宿りは取りつるぞと、悔しさもやらむ方なし」*2。与謝野晶子の訳によれば、「こんな寂しい所へなぜ自分は泊まりに来たのであろうと、源氏は後悔の念もしきりに起こる」とのこと。「やらむ方なし」は「(後悔の念も)しきりに起こる」と意訳されています。それをどこへやることもできない。悔悟の感情にどっぷり漬かるしかない状態なのかな。まっ、時間が解決してくれるのを待ちましょう。
[ろ]紛(まご)う方なしはまちがえようがないという意味である
■「紛(まぎ)れる」はご存知の通り、「見分けがつかなくなる」という意味です。「紛う方なし」で、明白であるという意味になります。
□歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」の最後、吉良邸に討ち入り、主君の仇高師直(こうの もろのお)を捕まえた大星由良之助の台詞です。「紛う方なき怨敵(おんてき)師直公、この上は尋常のお覚悟あれ…ト由良之助、判官切腹の短刀を出し前へ置く。師直おもむろにその短刀を取ると思入れ、由良之助に切ってかかる。由良之助それを取りあげ…御免…ト言って剌す」*3。悪役高師直は、どこまでも卑怯に描かれていますね。
[は]せん方なしはしかたないという意味である
■せん方は「する方法」でしょうか。「せん方なし」では、「他に方法がない」という意味になるらしい。
□吉田兼好の「徒然草」の第29段「しづかに思へば」は次のような文から始まります。「しづかに思へば、よろづに過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき」。現代語訳としてはここでは「胸がいっぱいになる」とされています*4。
□「せん方つき」も「しかたなく」という意味になります。親父が嫁に惚れ、嫁はせんかたつき(しかたなく)、息子に相談。息子は一計を案じ、嫁の服を借りて着て手拭いを頭にかぶり、火を焚いている。親父、いつものごとくに嫁が火を焚いていると思い、後ろから抱きしめれば息子、手拭いをとり、「これ親父さん、何をしなさる」。親父あわてず「いくつになっても子は可愛い」*5。臨機応変で機知に富んだ御年寄のようです。
[に]譬(たと)えん方なしはくらべようがないという意味である
■「比べようがない」は強調ですね。良くも悪くも「凄い」という意味らしい。
□岡本綺堂(きどう)の「慈悲心鳥」という作品では、「お冬さんの顔は鬼女のごとく、幽霊のごとく、たとえん方(かた)もなく物凄し」と使われていました*6。
[ほ]言わん方なしは言いようがないという意味である
■言わん方なしも強調らしい。「何とも言いようがない、表現できないほどである」という意味らしい。
□江戸時代に書かれた「遊歴雑記」という本には、「六郷の渡しの風景は両岸とも眺望に言はん方なし」とされています。六郷は昔は橋がかかっていたらしい。多摩川はしょっちゅう洪水があり、橋も流されたり改修したりを繰り返しており、元禄(げんろく)元年(1688年)の流失を最後に渡しに切り替えられたそうです*7。東海道は当時も日本一の街道ですが、多摩川は大井川同様、橋がなかったのかな。いまの橋は、正月の大学駅伝の選手も走っているらしい。
◇*HP「六郷橋 - Google マップ」
https://www.google.co.jp/maps/search/%E5%85%AD%E9%83%B7%E6%A9%8B/@35.540004,139.7127875,13z?hl=ja
◆参考*1:書籍「枕草子」初版494頁、松尾聰/永井和子訳注、ISBN978-4-305-70422-1、笠間書院
◇*2HP「http://www.geocities.jp/yassakasyota/genbun/04yugao.pdf」(源氏物語原文9頁)
http://www.geocities.jp/yassakasyota/genbun/04yugao.pdf
◇*3書籍「歌舞伎名作集2 丸本時代物集1」初版132頁、戸板康二他監修、東京創元社
◇*4書籍「徒然草(二)」文庫初版195頁、三木紀人(すみと)訳註、lSBN4-06-158429-4、講談社
◇*5書籍「江戸小咄女百態」文庫初版149〜150頁、興津要(おきつ かなめ)著、lSBN978-4-480-42409-9、筑摩書房
◇*6HP「岡本綺堂 慈悲心鳥」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/45506_23151.html
◇*7書籍「大江戸歴史百科」初版247頁、河出書房編集部編、ISBN978-4-309-22467-1、河出書房新社
◇辞書「日本国語大辞典」小学館
◇Yahoo! J Dictionaries 大辞泉
◇Yahoo! J Dictionaries 大辞林

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
先日、六郷大橋の上でネズミ取りをやってまして、あやうく引っかかりそうになって、慌ててブレーキを踏んでしまいましたよ。
江戸時代の方がのどかでよかったかな?
ねこのひげ
2015/06/07 04:59
コメントをありがとうございます。

 元禄(げんろく)元年(1688年)に流された六郷の橋は、貞享(じょうきょう)元年(1684年)に建造されたものだったらしい。その前は天和(てんな)元年(1681年)に建造されたとのこと。
 幅は8m、長さ200mほどとのこと。木造で長閑ではありますが、金喰い虫の橋だったのでしょう。とうとう「ヤメジャ!」となったようですね。
(^^;)
ねこのひげ様<素町人
2015/06/07 19:10

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