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zoom RSS 歌舞伎はとちりがいい。これってどんな意味なの?

<<   作成日時 : 2013/10/10 07:29   >>

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★日本語★
問題:12代目の團十郎(だんじゅうろう)が亡くなったり、18代目中村勘三郎(かんざぶろう)が亡くなったり、新しい歌舞伎座が開場したり、新しい市川猿之助(えんのすけ)が誕生したりと、この1年の歌舞伎界は話題に事欠きませんね。
■歌舞伎の人気者は時代とともに変わります。素町人が生きている間でいえば、一時は板東玉三郎(たまさぶろう)という女形が熱狂的な人気を集めました。15代目片岡仁左衛門(にざえもん)という2枚目、中村橋之助(はしのすけ)という2枚目半も人気者でしたね。いま、いちばん熱いのは人気ドラマで変わった役を演じた6代目片岡愛之助(あいのすけ)なのかな。
■本日は歌舞伎愛好者に伝わる問題です。歌舞伎を観るお客さんに、「とちりがいい」という言葉をかける場合があったようです。これは何を意味しているのでしょうか? 下の説明からいちばん近いものを選んでください。
[い]名優がふとおかすポカの間違いと、咄嗟(とっさ)に行なうその後始末が面白いという意味
[ろ]古典劇なのにアドリブで現代的な台詞を述べるところが面白いという意味
[は]「音羽屋!」とか「成田屋!」という掛け声の間合いをはずす人がいるのが面白いという意味
[に]舞台全体と花道が見える席がいいという意味
[ほ]初心者はイヤホンガイドで芝居の説明を聴かずに1回観て、それからもう1回ガイドを聴きながら観るのがいいという意味
(答えはずっと下↓ スクロールして下さい)

























★日本語★
正解:[に]舞台全体と花道が見える席がいいという意味
説明:「とちり」は、「いろはにほへ『とちり』ぬるを…」の「とちり」だそうです。昔の歌舞伎座では、列の名前に「いろは…」が振られていたとのこと。「とちり」の座席は、前から7〜9列目に当たるようです。ここが舞台全体を見渡せるし、花道も見えるし、舞台にわりと近い席だそうです。
■昔、生まれて初めて歌舞伎を生で観たときです。安い席だったんでしょうね。京都の南座、花道脇の上のほうで、たしかあぐらをかけるような場所でした。花道を通る役者の頭の天辺が見えたかな。たまたま、市川猿之助の「義経千本桜」で、宙づりの場面などがあり、わりと間近で観られて面白かったですね。
■通は大向う(おおむこう)に陣取るそうです。「舞台から見て正面に当たる観客席後方の料金の安い立ち見の場所」。舞台からは遠いけれど、正面から観られるのかな。役者側から観て「向かい」だから「大向う」。「大」の字は、お客様だからと奉って(たてまつって)つけられた接頭辞という説があります。別に、「向こう桟敷」のさらに後方にあるので「大向う」という説もあるようです。
■[い]の「名優がふとおかすポカの間違いと、咄嗟に行なうその後始末が面白いという意味」だと面白かったのですが。名優も人間ですから、失敗することもあるでしょう。でも、なんとか取り繕う(とりつくろう)ことができる場合もあるようです。
■6代目三遊亭圓生(えんしょう)の落語の「中村仲蔵(なかぞう)」で描かれた役者は、「申し上げます」の役でとちります*2。花道から出て七三の位置でピタッと座り、舞台に向かい「申し上げます」。「何事じゃ」。「何々様、おいでにございます」。「これへと申せ」。「ははっ」。たった3つの台詞。それも定形です。何々様の名前がかわるだけ。端役ですね。
■ある芝居の初日、駆け出しの頃の中村仲蔵が花道に出て「申し上げます」。主役の市川團十郎が「慌ただしく何事じゃ」。ここでふっと誰だったかを忘れてしまいます。しまったと思いましたがぐずぐずしていれば芝居に穴があきます。「ゴメン」と言ってツカツカツカと舞台にあがり、殿様役の市川團十郎の耳元で、「親方、台詞を忘れました」。團十郎は素知らぬ顔で「これへと申せ」。「ははっ」。
■芝居がはねてから座頭(ざがしら、座長)でもある團十郎の楽屋へ行きます。クビかもしれないと恐れつつ「お詫びの申し上げようもございません」と頭を下げると、意外にも團十郎は上機嫌です。「まぁ人間だから忘れることもある。でもお前は頓知があった。芝居を駄目にしなかったのはよかった」と言ってくれたそうです。それから團十郎に可愛がられ、徐々に出世して最後には座頭にまでなり、歴史に名を残す名優になった…と6代目圓生はCDの中で語っています。人生の転機になったとちりですね。
■もちろん、芝居が台無しになってしまうとちりもあるようです。5代目志ん生の弟子である初代金原亭(きんげんてい)馬の助が落語の枕で語っていました*3。昭和の昔は落語家たちが素人芝居をやる催しがあったそうです。6代目圓生とか5代目志ん生が現役だったころですね。NHKの主催で忠臣蔵の通し(とおし)をやりました。お軽勘平の道行きも演じられたそうです。
■勘平とお軽は主人塩冶判官(えんやはんがん)の凶事のあと、鎌倉を発ち、お軽の実家に向かいます。その旅の場面、舞台は戸塚山中に設定されています。お軽に横恋慕している鷺坂伴内(さぎさか ばんない)が手下とともに一行を追いかけて止め、お軽を奪おうとします。鷺坂伴内は、高師直(こうのもろのお)の家来です。高師直は塩冶判官をパワハラでいじめて切られ、軽傷を負った高級官僚です。主従そろって非道な連中です。
■いいがかりをつけてくるのに怒った勘平は刀を抜かずにドンと伴内を突き飛ばします。臆病な伴内は切られたと勘違いしてもだえますが、そこに勘平の台詞。「フフン、伴内。そりゃ鞘(さや)じゃ」。さげすみの言葉です。
■勘平役は落語芸術協会会長6代目春風亭柳橋(りゅうきょう)です。白くドーランを塗った顔はフランスの名優みたいだったと馬の助は証言しています。外見は名優風かもしれませんが中身は素人です。柳橋はあがっていたのでしょう。「フフン、勘平。そりゃ鞘じゃ」と言ってしまったらしい。一瞬、場内はシーンとなったそうです。その直後、割れんばかりの大爆笑が襲ってきたといいます。鷺坂伴内役は、2代目桂小文治という関西から来た落語の名人でしたが、素直に、「えぇぇ? 勘平はあんたや!」と返したそうです。柳橋は、「もといっ!」と軍隊みたいな言葉遣いで言い直そうとしたらしい。ここまで芝居が壊れてしまうと、収拾がつきませんね。でもお客さんは喜んだでしょう。観たかったな。
◆参考*1:番組「トクする日本語『歌舞伎にまつわることば』」130410放送分、NHK
◇*2CD「圓生百席30『中村仲蔵/長崎の赤飯』」6代目三遊亭圓生、東京ソニー・ミュージックエンターテイメント
◇*3CD「NHK落語名人選44『七段目/火焔太鼓』」初代金原亭馬の助、ポリドール

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コメント(2件)

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ねこのひげも安い席で見たことがありますが、新しい歌舞伎座も行ってみたいですね。
勘九郎さんがやっていた浅草歌舞伎は、値段を調べて断念いたしました(^^ゞ
ねこのひげ
2013/10/13 05:52
コメントをありがとうございます。

 江戸の昔も、歌舞伎は席によってはとんでもなく高い娯楽だったと聞きます。でも、立ち見の席は最低16文ぐらいで立ち食い蕎麦とおなじぐらいという時代もあったらしい。
 新歌舞伎座にもそうした席を作ればいいのにと思います。映画を観るよりもはるかに安く一幕だけ見られるなんて、粋だと思いますけどねぇ。
 いまのことですから、渋谷や伊勢佐木町、あるいは栄や道頓堀や天神に出店をつくり、中継を大きなディスプレイで観せてもいいでしょう。歌舞伎カフェ風に仕立ててもいいのかな。
(^^;)
ねこのひげ様<素町人
2013/10/13 11:15

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