「このタコ!」という罵倒語はどこから生まれたの?

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★日本語★
問題:映画「男はつらいよ」シリーズで、団子屋の隣りの印刷工場の社長は、タコ社長と呼ばれていました。いつも資金繰りに窮していましたね。「いいか!寅、てめえなんかにな、中小企業の経営者の苦労がわかってたまるか」。超零細企業の経営者としては、そのお気持ちは痛いほどわかります。
■タコ社長はなぜタコと呼ばれていたのでしょうか。頭部にあるべき毛髪が少なかったためなのか。それとも首から上の雰囲気全体がタコに似ているのか。理由はよくわかりません。
■「知って合点江戸ことば」*1という本によると、タコは「ばかやろう」の上を行く罵倒語だそうです。知りませんでしたね。たしかに敬称とは思えません。でも、親しみをこめた軽い蔑称ぐらいだと思っていました。「ばかやろう」の上だとすると、最上級の罵倒語なのかな。
■ではなぜタコが罵倒語になったのでしょうか。参考資料*1には細かく説明されていました。次のうちから正しいと思われる理由をえらんでください。なお、正しい理由は無いかもしれないし複数かもしれません。また、勝手ながら参考資料*1に掲載されている理由のみを正しいものとします。
[い]もともとは信州地方の方言で蔑称だった
[ろ]江戸の身分制度に由来する
[は]すかんタコという軽い蔑称から徐々に重い蔑称へと変化した
[に]凧揚げの凧と関係がある
[ほ]たこ焼きと関係がある
(答えはずっと下↓ スクロールして下さい)

























★日本語★
正解:[ろ]江戸の身分制度に由来する
説明:この説はなかなかユニークです。
■ご存じのとおり、江戸の昔は士農工商の四民不平等の社会です。また、最上位とされる武士の間にも身分制度は厳然としてありました。連中の中での大きな線引きは「御目見得」という点にあったようです。
■貴族の場合、天皇に直接会えるのが従五位下(じゅごいのげ)まで。そこまでは殿上人(てんじょうびと)と呼ばれたそうです。正六位上(しょうろくいのじょう)以下の身分は地下人(じげにん)と呼ばれました。卑しいので天皇には会えないわけですね。ちなみに従五位下は30段階ある貴族の階級制度の上から14番目。いちばん上が正一位です*3。
■江戸時代に大切だった御目見得は将軍に直接会えるかどうかという線引きです。幕府の役人の中で直参旗本と呼ばれる人たちは御目見得だったらしい。御家人と呼ばれる人たちは御目見得以下です。所得でいえば200~300石ぐらいで分かれたそうです。
■時代劇でいえば、大名はもちろん御目見得です。直参旗本も御目見得。たとえば町奉行所の与力といわれる人たちは御目見得だったらしい。でも御家人、たとえば同じ町奉行所勤務でも、同心と呼ばれる人たちはお目通りがかなわなかったらしい。なお、大名の家臣は、たとえ大藩の筆頭家老であってもお目通りは出来なかったと参考資料*1にはあります。いわゆる陪臣(ばいしん)だからとのこと。つまり、大名が将軍の家来ならば、家老は家来の家来ですね。又者(またもの)などと呼ばれ、御目見得以下らしい。
■なお、一万石ぐらいの大名、いわゆる小名たちは、もちろん御目見得ではありますが、将軍の顔も知らないという人が少なからずいたらしい。なにしろ将軍は御簾(みす)の中にいます。御目見得とはいえ顔をあげないまま何か挨拶を言ったりするそうです。で、そのまま将軍のほうに視線をくれずに退くこともあるらしい。場合によっては将軍は小名達が挨拶している間にトイレに行っていたりするとのこと。随分失礼ですね。
■それはともかく、旗本の息子さんたちは、自分たちが偉いと思っているのでしょうか。たとえば同心の息子さんたちに向かい、「イカ!」と蔑んだそうです。上様に謁見できない卑しい身分の者たちめということですね。「御目見得以下」のイカらしい。現代の言葉づかいでいえば御目見得「未満」が正しいような気もしますが、当時は「以下」と呼んでいたらしい。
■御家人の子供たちは悔しいので、旗本の子供たちに対して「このタコ」と言い返したそうです。「『イカ』と言われれば『タコ』と言い返すしかないではないか。それが転じて、身分の上の人をあざけって『タコ』『タコ野郎』というようになり、江戸一般の罵倒語になっていったのである」*1。
■なお「日本国語大辞典(小学館)」によれば、信州の方言として「タコ」という蔑称があったのは事実のようです。ただし、それが江戸でいうタコとおなじ罵倒語なのかどうかはわかりません。また、「すかんたこ」という蔑称もたしかにありますよね。ただし、それは京都や大阪地方の方言だそうです。東京の方言ではなさそうです。
◆参考*1:書籍「知って合点江戸ことば」新書初版32~35頁、大野敏明著、ISBN4-16-660145-8、文藝春秋
◇*2HP「すかんたことは - 京ことば Weblio辞書」
http://www.weblio.jp/content/%E3%81%99%E3%81%8B%E3%82%93%E3%81%9F%E3%81%93
◇*3書籍「まんが日本史キーワード 貴族になってみないか」初版8~9頁、高野澄著、ISBN4-378-05004-8、さ・え・ら書房

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年03月22日 05:17
以下が烏賊になったわけですね。
それに対抗して、蛸と・・・・・
なんだか、子供じみた悪口の応酬ですね。
それが定着したわけですか・・・・
イカがばかやろうより上の悪口というのにはピンときませんが、身分制度時代においては、くやしい言われ方だったんでしょうね。
ねこのひげ様<素町人
2013年03月22日 12:15
コメントをありがとうございます。

 タコもイカもおなじ頭足類の仲間です。絶滅してしまったアンモナイトを含めて、一種の親戚です。仲良くしていただきたいものです。
(^^;)
松本吉弘
2020年12月15日 19:45
松本吉弘
2020年12月15日 19:47
有難うございます。ちっとも知らなかった。

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